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福田和也『ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法』

どこかの書評で褒められていたのを見て購入、読了。文庫サイズで持ち運びやすく、ちょっとした打ち合わせの行き帰りで読み切れるくらいであった。

本書の"書く"ための施策に共感するところはあるが、それよりも注目したいのは"書き続ける"ための施策だ。日常的に文章を書かない人が、瞬発力を発揮してふだんから溜め込んでいることを一気に書き上げる、というのは案外すんなりといくもの。ただ、一定量を年中書き続ける、となると、簡単にはいかない。これは、某誌で連載をやらせていただくことになってから、とても強く実感している。

そんなときは、本書の「途中で書けなくなってしまった時」「一応、机に座っていること」などの項が、事態を展開させるのに役立つことだろう。仮に直接的な解にならなかったとしても、同じような問題に立ち向かっている人がいることを思えば、いくらか気が楽になるというものだ。

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藤原正彦『祖国とは国語』

本書は、教育における国語の重要性を語る「国語教育絶対論」、著者の家庭生活を描いたエッセイ集「いじわるにも程がある」、出生地である満州を訪ねた「満州再訪記」の3部構成になっている。直接的にメインテーマを扱っているのは、最初の「国語教育絶対論」だけで、他の2編はハッキリ言ってしまうと蛇足である。

タイトルが絶妙だと思い読み始めたが、本書の中で「これ(注:"祖国とは国語である"という言葉)はもともとフランスのシオランという人の言葉らしい」と明かされていて、いささかがっくりしてしまった。気になったのでシオランを調べてみたが、フランスではなくルーマニア人だった(パリに定住し、フランス語での著書が多くある)ため、二重にがっくりであった。裏付けとってないの?

とまぁ、重箱の隅をつつくのはこのくらいにしておいて、「国語教育絶対論」である。著者の主張する内容や、国語の重要性、必要性については激しく同意したい。が、いかんせん言論を裏付ける根拠や、客観的なデータが、あまりにも少ない。ほとんどの言説は、著者の主観や経験に基づいて展開されているため、かなり説得力に欠けている。うーん、もったいない。

なんだか文句ばかりになってしまったので、本書で感銘を受けた一節を引用しておく。「愛国心」という言葉に抱くイメージを、一変させてしまう名文だと思う。

英語で愛国心にあたるものに、ナショナリズムとパトリオティズムがあるが、二つはまったく異なる。ナショナリズムとは通常、他国を押しのけてでも自国の国益を追求する姿勢である。私はこれを国益主義と表現する。
パトリオティズムの方は、祖国の文化、伝統、歴史、自然などに誇りをもち、またそれらをこよなく愛する精神である。私はこれを祖国愛と表現する。家族愛、郷土愛の延長にあるものである。

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沢木耕太郎『杯(カップ)―緑の海へ』

ふだんスポーツのことなど語りもしない(少なくとも公の場では)人間が、オリンピックになると特番にしゃしゃり出てくることがよくある。その人と視聴者で、視点を共有するという意味合いはあるのだろうが、個人的にはあまり好きではない。日常的にその競技を見ていないお前に何が分かるのか、と。選手の4年間積み上げてきた努力と、それをサポートしてきたスタッフ、ファンの気持ちが汲み取れるわけがない、と。

本書を手に取ったとき、沢木もついにその類になったかよ、と思った。そしてフットボールを愛するスポーツライター達は何をしているのか、という苛立ちも覚えた。ノンフィクション作家に単行本を書かれて悔しくないのか?と脳内で罵声を浴びせてもみた。

が、読了したときにはそんな悪態をすべて謝罪したい気持ちになっていた。これは、立派なスポーツルポだ! 特に、終章でワールドカップ後の日韓戦まで取り上げる視点は秀逸だった。緑の海は、2002年だけではなく過去からも、未来へも、続いているのだ。日本と韓国の往復をはじめとした、「移動」を中心に話を進めていくところあたりも沢木らしい。

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角田光代『空中庭園』

タイトルの意図するところを理解した時点で、やられたー!と思った。そのまま写真のタイトルにすれば、ふとした日曜日に原宿あたりのギャラリーで飾られていてもおかしくない。拙者はそれを目にして同じようにやられたー!と思うのだと思う。そしてすぐさま似たような写真を撮って、「インスパイア」などと言いながらフォトログにアップしたい衝動に駆られるだろう。そのくらい嫉妬したくなる素晴らしいタイトルだ。

本作は、壊れていながらもなんとか日常を送っている家庭の様子を俯瞰している。家庭崩壊とか、仮面夫婦って、小説のテーマとしては暗くて救いのないもの。だけど、似たような境遇の家庭で育った身としては、特別目を背けたくなる気持ちはない。そういう状況でも、良くも悪くも関係が続いていくのが家庭だし。まぁ実際にその家庭の中に身を置いているときは、胸くそ悪いわけなんだけど。

ただ、やはり家族でいる状態というのは、それだけでひとつ承認がなされているとも思う。居心地が悪いときがあってもマナとコウは家に帰ってくるし、無駄口にイラつきながらも母親は自分の母のために買い物をするし、愛がなくても父親は母親との家庭を維持する(あ、これは家族だからっていうよりきっと惰性ですね。ダメ男だし)んだろう。というようなことを思った。

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桐野夏生『ローズガーデン』

村野ミロシリーズの一部としての短編集。おなじみの探偵業の話も収録されているが、やはり注目すべきは書名にもなっている「ローズガーデン」だろう。現在インドネシアで仕事に従事する博夫と、過去に父親とのゲームにのめり込むミロのストーリーの交錯は、読み進めていくうちに深い渦に巻き込まれていくようだった。

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SEGA『龍が如く 見参!』

PLAYSTATION 3用ゲームソフト。公式サイト

忙しくなって中断したり、新しいソフトに浮気したりでなかなか進まなかったけれども、ようやくクリア。最終章に入ってちょっとのところで4ヶ月くらい放置してしまったせいで、再開したときにはかなりストーリーを忘れてしまっていた(アホ)。とにかく続編が出る前にクリアできてよかった。ちなみにクリア時間は約40時間。かなりゆっくりめのペースでプレイした。

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筒井康隆『笑犬樓の逆襲』

前作に引き続き、これまた資料価値の高い一冊。断筆期間を経て各出版社と交わした覚書の話から始まり、もちろん笑いもてんこもり。原宿、神戸の名店案内のように「それはどうでもいいな……」と思われる回もあるけれど、そこは連載ゆえの苦し紛れということもあろうて。

しっかし筒井康隆がいなくなったら、戦争についてのブラックユーモアを他の誰が書いてくれるのだろうか。心配だ。

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佐藤秀峰『新ブラックジャックによろしく』5

「政治家にでもなれよ ムツミちゃん」「なって法律を変えろよ……」

日本で臓器移植が始まった頃、僕は高校生だった。学校をサボった昼時に見るテレビには、どこかの人の臓器が、またどこかの人に移植されるという言葉とともに、クーラーボックスを担いでヘリコプターに乗り込む白衣の人たちが映っていた。

脳死が人の死と認められるようになったことは理解したつもりでいても、それが一体どういうことなのか、漠然としか受け止められていなかったように思う。まぁ、しっかり受け止めろというのが無理な話な気はするけれど。このように、頭では分かっていたつもりでいても、実際の現場に立ち会うと大きなとまどいを感じるものなんだろう。

例えば今、僕に30年くらい連れ添ってきた愛する妻がいるとして(仮定くらいさせてくれ!)、脳死になったからといって臓器提供にOKと言えるだろうか。例えば小学生からの親友が脳死になって、体中の臓器を取り除かれた姿を見て、どういう感情が芽生えるのだろうか。

今度、ホルモンを食べるときにでも、また少し考えてみよう。

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川端裕人『The S.O.U.P.』

内容よりも先に、作者の取材力に感心した。中でもLinuxや、ネットワークに関する描写は、決して表面をなぞった下調べだけでは、ここまで細かく書くことはできなかっただろう。

コンピュータが中心となるSF小説は、お話を展開することが中心でコンピュータは脇役のさらに脇役程度に収まっているものと、何回でしつこすぎる描写を繰り返しまくるものが多い(きっと拙者が読んでいるものが、イマイチなんでしょうね……よい作品があれば教えてくださいませ)。「リアリティ」面から見ると本作はかなり秀逸の出来と言えよう。

しつこいぐらいにハッカーとクラッカーの違いを述べてくれる点について、「もっと言ってくれ!」と賞賛を贈ったのは拙者だけではないはず!

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フィリップ・トルシエ『オシムジャパンよ!日本サッカーへの提言』

本書は、3つの章で構成されている。

  1. ジーコジャパンの歩んだ4年間の総括
  2. オシムジャパンの船出に対する感想とこれからの展望
  3. 世界と比較しながらの日本サッカーへの提言

この中でも特に本書を良書たる位置づけに押し上げているのが、ジーコジャパンの総括だ。2006年のドイツワールドカップ後、ジーコからオシムへの監督交代劇(よくスポーツメディアは"交代劇"という書き方をするけれども、川淵氏の発言も含めて本当に"劇"だった)により、ほとんどの代表ファンとメディアはジーコの4年間を真剣に振り返る時間を持てなかった。そりゃもちろん、予選リーグ敗退の辛い現実を受け止める前に、オシムがもたらしてくれるであろう新たな希望を迎え入れる方が楽に決まっている。

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