小松成美『中田英寿 誇り』

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本書は、サッカー選手中田英寿がどのような経緯で引退を決意し、現役最後の大会となったドイツワールドカップに臨んだのか、本人やその周辺へのインタビューを交えながら記されたノンフィクションだ。ペルージャからボルトンまでの移籍に関する舞台裏の様子や、代表チームで不和が取りざたされた宮本や福西とのやり取りなど、海外移籍から引退に至るまでハイライトが凝縮されている。特にペルージャ時代、ガウチ一族による一連の違法行為によって苦しめられていた下りは、サッカー選手としてのピークを迎えつつある中田のジレンマが手に取るように感じられる。

ひとつだけ気になるのは、著者の視点がずいぶんと中田サイドに偏っているという点だ。本書を書き始めるきっかけが、彼の所属事務所であるサニーサイドアップからの執筆依頼であったとしても、スポーツドキュメントとしては問題を多角的に捉えていくことが必要なのではないか。FIFAも掲げる「Fair Play」精神に欠けているのではないか。現に、サニーサイドアップの社長である次原を始め、中田の周辺にいる人物への取材模様は豊富に文章へ反映されているのだが、中田と対立することになったパルマの元監督であるチェーザレ・プランデッリや、代表のディフェンダー陣への取材は、皆無といっていい。ほとんど中田からの伝え聞きか、報道からの得た情報に落ち着いているのである。

ただ、いずれにしても本書がカズに次ぐ日本サッカー界のスーパースターとなった中田英寿を追った貴重なルポであることは間違いない。


★★★☆☆

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